私がその存在を知ったのは7年前の冬だった 詳しいことを知る人間は居らず ただ とても恐ろしい存在だという噂話だけが飛び交っていた ある日私は夢を見た 夢にはそいつが出てきた 見たこともないのに そいつだとすぐにわかった 囁きかけてくる 言葉が理解できない 不気味な金属のような声だった エンジン音が遠くで聞こえた 逃げ出そうとすると 椅子に体を縛り付けられていることに気がついた 金属音がわらいごえのように聞こえたとき 足元が突然消え 落下するのを感じた 高いところから落とされる浮遊感に経験があった いつもと違うのは 幾ら手足をばたつかせても 空を切るばかりで何も掴めないことだった 私は空に投げ出されていることに気がついた 永遠に海面には着かない そう感じたとき 私は飛び起きた それから二度と夢を見ることはなかった そいつについては いつのまにか忘れた

 

ある日 友人と海沿いを歩いていた とても良く晴れた日で 花壇いっぱいの花がうつくしかった 長い階段を登りきったとき 聞き覚えのある声が聞こえた あの金属音だった 冷たい空気に投げ出される感覚のすべてが蘇った ことばがはっきりとわかり 私は怪物の完成を感じた

私が止める前に 友人は引き込まれるようにそいつの口に吸い込まれていった
白い建物は 手招きしているように見えた
夏のことだった