灯台

 

 

灯台はどうして一瞬しか照らしてくれないんだろう

登ればなにかわかる筈だ

私たちはピッキングをし真夜中の灯台へ侵入した 犯罪だけど 器物損壊はしていないので大目に見てほしい

外側はすこし汚れて見えていたが 中は白くて綺麗だった 狭いけれど 首が痛くなるほどの高さがあった

悪い事だという自覚があったので 中に入ることに少し躊躇したが ここまで来てしまった以上 登らない選択肢は無い 好奇心が勝った

私たちは螺旋階段をぐるぐると登り始めた

始めは探検のようで楽しかったが だんだんと息が切れ 苦痛になった  いつまでもただ白い壁が続くだけで 変わり映えが無いように思えてくる

自分で足を踏み入れたにも関わらず 何故か騙されたような気になり 憤りに近いものを感じ始めていた 悪態を吐きながら登り続けたが 疲労から友人は息を切らしずっと黙っていた

途中 窓があり外を眺めると地面は遠く いつのまにこんなに遠くへ来たのかと思った 潮風が気持ちよく登った甲斐があると心底思った 自分の力でここまで来たことに誇らしくなり 必ず頂上まで登る決意を固め私たちはふたたび足を持ち上げた

ふと いつのまにか 疲労をまったく感じていないことに気がついた 頂上に着くことだけを目指し 足はどんどん進み 軽い もう終わりは見えていた 扉もなくアーチ状に出口があるだけだった

その先は明るかった 私は灯台を登っていたことを急に思い出した 波の音が聴こえて 私たちは頂上へ出た 何メートルあるのかわからないけれど 恐ろしく高く 風がすがすがしい 下を眺めると案外不安定な建物だった 断崖絶壁の上にぽつりと立つのはとても孤独なように感じられた  暗い海を見ると 光る船がぽつぽつと浮かんでいた  灯台は なにかを照らすためではなく 舟が迷わないよう光り続けていることに気がついた

頑張った甲斐があったわ 友人はそう言って 写真をたくさん撮っていた 彼女は私の横顔を撮った 私たちはしばらくそこに立ち 充分満足すると 頂上を後にした 驚くほど帰り道はあっさりしていた 行きの半分も無いように感じられ 楽々と降りていった

鍵を戻す際 いい場所だけど住めやしない と友人は言った 灯台を家にするもの好きもいるだろうかと考えた おもしろい家だとおもった

あれから灯台へは近づいてもいないけれど ふとたまに思い出す あの灯台はいまも一瞬だけ私を照らした