夢日記 二

 

 

上野に着いた

崖の上から流れる滝の飛沫は細かい霧になり 周囲を湿らせた  今日 ここへ現れることはわかっていた 先回りしていた僕は 人混みの中にその姿を見つけた

彼女の足取りは どこへ向かうべきなのか直感でわかっているかのようだった 僕は彼女の肩の辺りの服を摘み 人混みにぶつからないよう 時折軌道修正をする 彼女は僕に気がつかなかったが 僕は待った 邪魔をしてはいけない気がした

 

崖を登り切り △△区の  せ 駅 に着いた
神社以上に人で溢れ返り 暗闇の中見失わないようにするのに苦労した 景色が見やすい場所へ誘導する 彼女は何か思考を巡らせていた

 

日が昇り始め 雪の積もった海辺の駅は眩しく反射した 大勢のカメラマンに倣い iPhoneで風景を撮影する白い横顔を眺めた
昇っていく太陽が僕の顔を照らしたとき 彼女はようやく僕の存在に気がついた  僕達はごく自然に寄り添い 歩き出した


しばらく歩くと 水族館に着いた 水温が低い為か館内はひんやりとし 薄暗い中 白い水槽が映えた

彼女は透明なイカの前で暫く立ち尽くした ダンゴムシのような なんとも言えない生物を 巨大なイカが暴れながら捕食している 彼女は恐怖を感じたのか不安が滲んでいた 僕は水槽から遠ざけるように彼女の袖を引いた
僕たちは互いに会話する術を持たなかったが 目を見れば意思を汲み合うことができた

 

彼女とのひと時を楽しみ 再び崖へ戻る 短い時間の終わりが迫っていた
僕は 口の動きだけでも 何か伝えようと思った けれど 言葉は何一つ浮かんでこなかった 底の深い目に見つめられながら 自分ですら曖昧な彼女への感情が内から溢れ出すのを感じた
僕はお別れに彼女の顔に触れた すべすべとした暖かい錯覚と すり抜けるような悲しさがあった
そうして僕はひとり 駅へ向かった

 

ホームの雪はすっかり溶け 青い草が見えていた 次第に波の音が耳に戻った
喪失とは こうやって乗り越えられていくものなのか と思った
もう 何年もかけて 僕はそうしてきたのだ

 

電車の発車ベルが鳴る ぬるい潮風は生を感じさせた 日差しの中を走り出した電車に揺られ 時間が進んで行くのを感じる 僕は彼女へ恥ずかしくない自分であり続けようと誓った そうしてようやく 堰き止めていたものが溢れ出した